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桂 小 五 郎
「あれなるは、当道場門人|戸張節五郎《とばりふしごろう》」
と、近藤は七里研之助に紹介した。戸張とは、代人の桂小五郎のことだ。
「まず、当流の太刀癖をお知りねがう上で、この者とお手合せねがいたい」
「承知した」
うなずきながらも七里研之助は、うろんな表情をかくしきれない。戸張節五郎という剣客の名など、きいたこともないのである。
見れば、小兵《こひよう》ではないか。
(大したことはあるまい)
七里はそんな顔をした。
近藤道場では、三番町の神道無念流斎藤道場から人をよんでくる場合、たれでも「戸張節五郎」という架空の名を用いる例になっている。
やがて、道場の隠居近藤周斎老人があらわれて、
「わしが近藤周斎」
と、七里研之助に目礼し、ひょこひょこと道場の中央に進み出た。試合の審判をするためである。
六十三。
百姓|然《ぜん》としている。近藤、土方、沖田はこの老人に手ほどきをうけ、近藤、沖田はそれぞれ免許皆伝をうけたが、土方歳三だけはこの老人から目録しかもらっていない。
——歳《とし》ァ、腕は立つ。
周斎はそういっていた。
——真剣でやれば勇《いさみ》も危ねえだろう。が、あれは雑流だよ。天然理心流じゃねえ。いくら手直しをしてやっても、直しゃがらねえから、あいつは天然理心流では目録、我流では免許皆伝、それで十分なやつだ。
と、流儀にはなかなか手きびしい。
さて、桂小五郎が、立ちあがった。
ついで、七里研之助。
双方、道場の中央へ歩み寄り、講武所の礼法どおり、九歩の間合をとって目礼し、かがまりつつ竹刀を抜きあわせた。
桂は、述べたように小兵である。それが常寸《じようすん》よりやや短か目の竹刀をかるがると頭上に漂わせている。
七里研之助は大柄《おおがら》のうえに四尺の大竹刀を使っている。どう見ても、見た眼の威圧《おし》が桂とはちがう。
——近藤さん。
と、歳三は、桂のほうをみながら低声で話しかけた。
「負けるんじゃねえかな、あの男、どうも腰が浮きすぎている」
「そういえば、気組がないな」
気組、つまり、気力、気魄のことだ。他流の技術偏重主義に対し、天然理心流ではこれをもっとも尊ぶ。いや、近藤勇の場合、剣術理論の上だけでなく人物鑑定にもこれを用い、あいつは気組がある、ない、というだけで、男の価値をきめるくせがあった。
「やはり、小才子にすぎねえな」
と、歳三はささやいた。歳三にすれば、七里研之助よりも、せっかく傭《やと》ってきた味方の桂のほうが憎い、といった口ぶりである。
「しかし、歳」
と近藤がいった。
「笑いごとじゃすまねえぜ。あの野郎が負けると、お前《めえ》か総司が、七里と立ち合わなくちゃならねえ」
「真剣なら、やってもいい。七里研之助なんざ、あとあとまで祟《たた》りそうなやつだから、足腰の立たねえようにしておくほうがいいんだ」
「物騒なことを云やがる」
そのとき、道場の中央では、周斎老人が手をあげ、
——勝負三本。
と宣した。
七里研之助は飛びさがって下段《げだん》。下段は狡猾《こうかつ》という。攻撃よりもむしろ、相手の出方を試《ため》すのに都合のいい構えである。自然、構えが、暗い。
桂は小兵のくせに、剣尖を舞いあげて派手な左上段をとった。構えに明るさがある。いかにも日向《ひなた》を歩いてきた男、という大らかさが、その体《たい》にあった。
が、小兵の上段だ。七里は、甘し、とみたのだろう。
中段に直すや、ツツと間合を詰め、桂を剣尖で圧迫しつつ、
「やあっ」
と手をあげて胴を襲おうとした。その七里のわずかな起頭《おこりがしら》の籠手を、桂は目にもとまらぬはやさで撃った。
「籠手あり」
周斎老人の手が、桂にあがった。
つぎは、桂が中段。
七里研之助は右上段にとったが、足は自然体をとらず、古い剣法のように撞木《しゆもく》に踏み構え、歩幅がひろい。木刀や真剣のばあいはいいが、竹刀の場合は柔軟を欠く。
(泥臭え)
歳三でさえそうおもった。甲源一刀流といえば聞えはいいが、所詮《しよせん》は、武州八王子の田臭《でんしゆう》が、ありありと出ている。
が、その点、桂はまるでちがう。体《たい》に無理がなく、竹刀が軽い。さすが、精練をきわめた江戸の大流儀である。
ぱっ、と七里の剣が桂の面を襲ったが、桂は体を退《の》くと同時に、自分の剣のシノギで七里の剣を摺《す》りあげてふりかぶり、踏みこんで面を撃った。
(巧緻《こうち》だ)
と歳三はおもった。
が、撃ちは浅く、周斎はとらない。天然理心流では、骨に沁《し》み入るほどの撃ちでなければ、斬れぬ、としてとらないのである。
桂は、さらに踏みこんで面をつづけさまに三度撃ったが、これも周斎はとらない。
つぎは、七里が桂の面を襲った。が、桂は一瞬腰を推進させ、右ひざを板敷につき、竹刀を旋回させて七里の右胴を、びしり、と撃ち、さらに左足を踏みだして左胴を撃ち、つぎは立ちあがりざま、七里の籠手をうった。七里は、桂の曲芸のような竹刀さばきに手も足も出ない。最後に桂は竹刀を頭上に旋回させつつ、七里の横面をとった。
「面あり」
周斎は、その|撃ち《ヽヽ》を採《と》った。
最後の一本は、桂は、こういう場合の他流試合の儀礼として籠手一本を七里にゆずり、さっと自分で竹刀をひいた。
(気障《きざ》なことをしやがる)
譲りがみえすいているだけに、歳三は気に食わなかった。
「それまで」
周斎が、手をあげた。
試合がおわると、桂は不愛想な顔でさっさと身仕舞いをし、道場のむこうへ消えようとした。
「歳、茶菓の接待をしろ」
と、近藤はあわてながら、
「七里はわしが酒肴《しゆこう》で応接する。お前は、桂のほうだ。帰りの駕籠の支度をわすれるんじゃねえぞ」
「ふむ」
面白くねえ、とおもったが、歳三は道場を出て玄関の式台のところで、
「桂先生」
とよびとめた。
「別間に支度がしてございますから、暫時《ざんじ》、ご休息ねがいます」
「いや、いそぐ」
桂は、ふりむきもしない。この場合、桂と歳三の位置を今日風《こんにちふう》にいうならば、総合病院の副院長と、町の医院の代診との関係を想像すればよかろう。
「しかし、桂先生」
歳三は、袖をとらえた。桂はふりむいてから、ぎょっとした。
そこに眼があり、歳三の憎悪が燃えている。
桂は、気になった。
(なぜこの男は、こんな眼をするのか)
「では」
と、桂はおとなしく歳三に従った。支度は周斎老人の部屋にできている。
床柱の前に着座した桂に対し、歳三はことさらにうやうやしく拝跪《はいき》した。
「当道場の師範代土方歳三と申します。以後お見知りおきください」
「こちらこそ」
桂の頭は、軽い。
やがて、近藤の女房の|おつ《ヽヽ》ね《ヽ》が、茶菓を運んできた。
これも陰気な女だから、一通りのあいさつはするが、愛想笑い一つしない。
|おつ《ヽヽ》ね《ヽ》は、茶菓のほかに、紙と銭をのせた盆を桂の膝前にすすめた。桂は馴れた手つきでそれを受けとると、懐ろに入れ、あとは無表情に茶碗をとりあげた。
「桂先生」
歳三は、糞丁寧にいった。年恰好は、歳三とかわらない。
「さきほど、おみごとなお試合をみせていただき、眼福至極《がんぷくしごく》に存じました。あれほどの巧者《こうしや》な竹刀さばきは、甲源一刀流、天然理心流などのような田舎剣法では、とても及べません」
「いやいや」
「おかげさまにて、当道場の面目は立ちましたが、ただ後学のために伺いたいことがござります。先生の精妙な竹刀さばきは、打物《うちもの》が木刀、真剣でもおなじぐあいに行くものでしょうか」
「わかりませんな」
桂は、相変らず不愛想だ。歳三はなおも、
「天然理心流にしろ、甲源一刀流にしろ、馬庭念流にしろ、武州、上州の剣術は、実戦むきにできたものですから、ついつい、道場剣術では、江戸の大流儀に負《ひ》けをとります」
「そうですか」
桂は、そんな話柄《わへい》には興味がないらしい。
「もしも」
歳三はにらみすえて、
「いかがでしょう」
「なにがです」
「あれが竹刀でなく真剣なら、七里研之助をああは容易に撃てたかどうか」
「わかりませんな」
と、桂はいった。
相手にならない。田舎の小流儀派に教えにゆくと、かならず歳三のようなのがいて、
——実戦にはいかがなものでしょう。
という。桂は馴れている。
「しかし桂先生、もしここに暴漢がいて、先生に襲いかかってきたらどうします」
「私に?」
桂は、はじめて微笑《わら》った。
「逃げますよ」
「………」
歳三とは、まったく肌合いのちがった男らしい。

近藤は、自室で、|おつ《ヽヽ》ね《ヽ》に酒肴を出させながら七里研之助と応対している。
七里は、立てつづけに十杯ばかりを飲みほすと、
「いかがです。ひとつ」
「酒ですか」
「いや、試合のこと」
七里は皮肉な顔で、
「こんだァ、御当流のお歴々を八王子に招待したいが、請《う》けてくれますか」
「さあ」
「八王子の酒はまずいが、剣のほうなら比留間道場をあげて十分におもてなしする。じつはそういう積りがあって、このたび試合を申し入れたのです。いかがですかな」
「門人とも相談の上で」
「相談もいいが」
七里は、ぐっと飲みほし、
「代人は、断わりますぜ」
「え?」
「甘くみてもらっちゃ、こまる。知らねえと思っていなさったか。ああいう竹刀曲芸の化物のようなのを呼んでもらっちゃこまる、というんだ」
「そうかね」
近藤は、嶮《けわ》しい顔をした。それっきり、ものも云わない。近藤の癖で、不利になるとだまる。だまると、すさまじい顔になる。
そこへ沖田総司が入ってきた。酒間の周旋をするためである。
「総司、こちら様はな」
と、近藤はいった。
「八王子で試合をなさりたいそうだ。これは請けねばなるまいが、竹刀の曲芸ならいやだとおっしゃる」
「七里先生」
と、総司は向きなおっておどろいてみせた。
「真剣でやる、とおっしゃるのですか。それァよくないご料簡《りようけん》ですよ。まるで合戦になってしまう。いまに、多摩の地は剣術|停止《ちようじ》になりますよ」
「ちがう」
と七里はいったが、追っつかない。
「日は、いつです」
「追って、お招《よ》びする日はきめる」
「しかし合戦に、日も約定《やくじよう》もありますまい」
「総司」
近藤が、むしろあわてた。
「さがってろ」
へっ、と総司はひきさがってから、廊下で歳三とばったり会った。
「桂先生は、もうお帰りになりましたか」
「帰った」
「大儀に存じます」
沖田は、おどけた。この男がおどけはじめると、ろくなことがない。
「土方さん、だいぶ、御機嫌がよかありませんね。近藤先生も、ちょうどおなじ顔つきで、苦《にが》りきっていましたよ」
「まだいるのか、七里が」
「いますとも。いるどころか、こんどは竹刀じゃなくて合戦はどうだ、と持ちかけています」
「うそをつけ」
歳三はどなったが、すぐ真顔になって、七里のことだ、やりかねまい、どんな話だったか、いってみろ、といった。
「いや、大した話じゃありませんよ。まず、御当流の御一同を八王子に招待する、日は追って決めるが、竹刀じゃない、真剣で」
「といったか」
「うん」
沖田総司は、可愛い|あご《ヽヽ》をひいてうなずいた。歳三は、道場の裏に出た。
その真黒い土の上に、大男の原田左之助が諸肌《もろはだ》ぬぎになり、村《むら》角力《ずもう》ほどはある腹を天にむけて寝そべっている。
この食客の日課である。腹に一文字の傷あとがあり、それがときどき思いだしたように痛むので、毎日、時間をきめて陽に当てる。
「原田君」
へっ、と起きあがった。
「君は、たしか人を斬ってみたい、といっていたな」
「いいましたがね」
不愛想な男だ。
肥っちょだが、色白の上にひげの剃りあとが青く、眼が意外に涼しい。が、短気この上ない男で、近藤や歳三でさえ、この食客とものをいうときは、よほど言葉に注意をする。
「あるんだ、その口が」
と、歳三は、折れ釘をひろった。
歳三の癖で、すぐ地図をかく。が、それが誰がみてもありありとその場所を想像できるほど巧妙だというから、この当時の人物としては、珍しい才能だろう。
一本、ぐっと線をひき、
「これが甲州街道だ」
「ふむ」
「浅川が、北から流れている」
「八王子宿ですな」
原田左之助は、うなずいた。
いいな、と云いながら歳三は、次第に筋を複雑にして行って、やがて一点を指した。
「ここだ、原田君。明後日の夜には到着して泊まっていろ。木賃宿《きちんやど》で、名だけは立派な江戸屋というんだ。委細は沖田総司に云っておくが、しかしこのこと、若《わか》(近藤のこと)」
と、親指を立てて、
「に云ってもらってはこまる」
あとは、おなじことを、食客の藤堂平助、永倉新八にも告げ、最後に沖田総司をよんでくわしく作戦を打ちあけた。
「いいか、みなを連れて八王子に行くんだ」
「それで江戸屋に泊まって、土方さんの合図を待ってから比留間道場を襲うのですな。ところで土方さんは、どうなさるのです」
「おれか」
歳三はちょっと考えて、
「発《た》つよ」
「いまから?」
「ああ。あの七里研之助が当道場を出ねえうちにこのまま抜け駈けて八王子へ行く」
「おどろいたなあ」
顔はちっとも驚いていない。
「それで、どうなさるのです」
「比留間屋敷を訪ねるさ」
「訪ねる?」
「兵は奇道だ。相手の喧嘩支度の整うのを待ってから襲《や》っては戦さは五分五分になる。おれが先発するのは、あの屋敷へお前らの人数をすらすらとひきこめるようにしておくのだ」
「軍師だな」
歳三は、そのまま発った。
八王子まで十三里。
途中、日野の佐藤屋敷の前を通る。むろん素通りである。
八王子に着けば、すぐ比留間屋敷を訪ねる。
といっても、尋常な手続きで訪ねられるものとは、歳三もおもっていない。

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