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「いてもいなくても、親子」

この春、兄が一人暮らしを始めた。九州での学生生活だ。兄の椅子がポツンとひとつ。食卓の一角がぽっかりあいた。家が広くなった。そして、私の分担の洗濯物が激減した。私は、兄がいないのを実感した。父が、おとなしい。あんなに怒ってばかりいたのに。あんなに威張っていたのに。今は落ち着きまでない。反面、母が、以前より忙しくしている。あんなに外で働くのを嫌がっていたのに、兄の仕送りのため、いそいそと仕事に出る。帰って来ると、三日に一度は、荷造りだ。

「野菜が高いからね。お兄さん、大変でしょう。それに、お菓子だって、男の子は買いにくいものよ。」

まるで私に言い訳をするかのように、丁寧に荷造りに励む。隣りで、父は、静かに新聞を読んでいる。

「お父さん、手伝ったら。」

私の声も、父には届かないようだ。

家族。たった、ひとりいないだけで、こうも空気が違うものか。家族。あんなにけんかばかりしていた私も、最近、けんか相手がいなくて、どうも変だ。

「早く帰って来ないかな。いたって、意地悪されるくらいなのに。でも、いないと調子がおかしくなっちゃう。早く帰って来てよ。」

そう、心の中で思いつつ、今日も、父母を気遣っている。寂しいのは、私ばかりではないはずだから。

先日、電話があった。兄からだ。

「ああ、達美か。勉強しろよ。ふざけてると、大学に入ってから泣くぞ。それと、お父さんとお母さんのこと、頼むぞ。」

そう言うと、切れた。私は、兄が、少しだけ好きになった。いてもいなくても、家族。いてもいなくても、親子なのだと、私は、そのとき、気づいた。 

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